テクノロジー法務の国際潮流

2025年10月01日公開

第11回 行政によるAI利活用

行政によるAI利活用の現状

 筆者は県顧問弁護士や豊島区個人情報保護審議会委員として、自治体のAI化を含むデジタル化に関与している
 行政はますますAIを利活用しており、少なくとも導入率はめざましい。例えば、生成AIを導入済みの団体は、都道府県で87%、指定都市で90%、その他の市区町村で30%となった。実証中、導入予定を含めると、都道府県・指定都市は100%、その他の市区町村は51%が生成AIの導入に向けて取り組んでいる
 また、生成AI以外を含むAI導入済み団体数は、都道府県・指定都市で100%、その他の市区町村は58%となり、実証中、導入予定、導入検討中を含めると約76%がAIの導入に向けて取り組んでいる。RPAの導入済み団体数は、都道府県が94%、指定都市が100%、その他の市区町村は41%となり、実証中、導入予定、導入検討中を含めると約65%がRPAの導入に向けて取り組んでいる。AI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」も「行政事務の効率化及び高度化を図るため、国の行政機関における人工知能関連技術の積極的な活用を進める」国の責務(4条2項)及び「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関し(中略) その地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する」地方自治体の責務(5条)を定めた


1)行政とAIにつき、松尾剛行『生成AIの法律実務』207頁以下。その他のAIと行政法に関する筆者の研究の一部に、久末弥生編『都市行政の最先端 法学と政治学 からの展望』(日本評論社、2019年)第6章「都市行政とAI・ロボット活用」松尾剛行「行政におけるAI ・ロボットの利用に関する法的考察」情報ネットワーク・ローレビュー第17巻(2019年)92頁以下、松尾剛行「ChatGPT時代の行政におけるAIの利用にあたっての法的課題 AIの利用に伴う透明性の問題(1)」戸籍時報2023年8月号vol.842、松尾剛行「ChatGPT時代の行政におけるAIの利用にあたっての法的課題(2)AIの提供した誤情報への信頼保護及び国家賠償責任」戸籍時報2023年9月号vol.843、松尾剛行「ChatGPT時代の行政におけるAIの利用にあたっての法的課題(3)AIの利活用と民営化や民間委託との比較及び行政はAIとどう付き合うべきか」戸籍時報2023年10月号vol.844、松尾剛行「ChatGPT時代の行政におけるAIの利用にあたっての法的課題(4・完)行政におけるChatGPTの利用実務」戸籍時報2023年11月号vol.846、及び松尾剛行他「行政におけるAI利用の法的課題」都市問題2024年2月号がある。
2)総務省情報流通行政局地域通信振興課自治行政局行政経営支援室「自治体における生成AI導入状況(2025年)
https://www.soumu.go.jp/main_content/001018084.pdf
3)総務省情報流通行政局地域通信振興課自治行政局行政経営支援室 「自治体におけるAI・RPA活用促進(2025年)」https://www.soumu.go.jp/main_content/001018084.pdf
4)AI新法につき松尾剛行「【2025年施行】AI新法とは?AIの研究開発・利活用を推進する法律を分かりやすく解説!」契約ウォッチ2025年7月10日 https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/2025-ai-law/ 参照。

Ⅱ  行政によるAI利活用を促進するための二つの報告書等

1 多数の報告書類の存在

 行政によるAIの利活用に関する報告書は多数存在する5。その中でも、デジタル技術を活用した行政に関する法的課題の調査研究報告書(2024年)6は、既に総論的問題として利活用のあり方に応じて法的課題が変わること、行政通則法の体系(行政過程の法的把握)の見直しの可能性、各論的問題として透明性(理由提示・説明可能性)との関係、公平性・差別禁止との関係及び国民の権利利益の保護・救済に関する対応との関係を論じており、注目に値する。
 そして、2025年7月と9月に相次いで、行政通則法的観点からのAI利活用調査研究会中間整理(以下「中間整理」という。)7、と自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ報告書が公表された(以下、「WG報告書」といい、中間整理と併せて「報告書等」と総称する。)8


5)網羅的ではないが、その一部につき、
地方自治体における業務プロセス・システムの標準化 及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会 報告書(2019年) https://www.soumu.go.jp/main_content/000624721.pdf
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(2022年) https://www.soumu.go.jp/main_content/000820109.pdf
自治体における生成AI利活用に係る論点整理(2024年)https://www.soumu.go.jp/main_content/000989314.pdf
生成AI利活用に係る今後の対応方針等について(2024年)https://www.soumu.go.jp/main_content/000989308.pdf
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<別冊付録>先行団体における生成AI導入事例集(2024年)https://www.soumu.go.jp/main_content/000956981.pdf
ChatGPT 等の生成 AI の業務利用に関する申合せ(第 2.1 版)(2025年3月)
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/debd5eca-6832-406e-a530-4e98ec032133/c60c5872/20250325_meeting_executive_agreement_07.pdf
自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 4.0版】(2025年3月) https://www.soumu.go.jp/main_content/001001126.pdf
行政の進化と革新のための生成 AI の調達・利活用に係るガイドライン(2025年5月) 
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2a06143-ed29-4f1d-9c31-0f06fca67afc/80419aea/20250527_resources_standard_guidelines_guideline_01.pdf
政府等保有データのAI学習データへの変換に係る調査研究(2025年6月) 
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/382c3937-f43c-4452-ae27-2ea7bb66ec75/1157c43f/20250604_news_ai_training-data_report_01.pdf
デジタル庁 R6 年度生成 AI の業務利用に関する技術検証、利用環境整備報告書(2025年6月) 
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/527968c1-5f55-42d4-868c-54112776c19f/9df94519/20250602_news_generative-ai_report_01.pdf
自治体におけるRPA導入ガイドブック(2025年7月)https://www.soumu.go.jp/main_content/000731625.pdf
行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係る ガイドライン充実に向けた論点候補(2025年9月)
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5fbbbf70-77fc-46be-ae8b-85df7fc57a7e/8724fe3b/20250918_meeting_ai-advisory_outline_05.pdf
生成 AI の導入・活用に向けた実践ハンドブック(こども、子育て)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c1890510-04d4-497b-9e23-a7f514016c7d/04f2c133/20250709_councils_kodomo_seisaku_DX_40.pdf
初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(教育)
https://www.mext.go.jp/content/20241226-mxt_shuukyo02-000030823_001.pdf
観光地・観光産業の生成AIの適切な活用に向けて (観光)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001888805.pdf
 装備品等の研究開発における 責任あるAI適用ガイドライン (防衛)
https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/ai_guideline/ai_guideline_ver.01.pdf
将来を見据えたハローワークにおけるAI活用について(ハローワーク)
https://www.mhlw.go.jp/content/11601100/001478507.pdf
6)https://www.soumu.go.jp/main_content/000984044.pdf
7)https://www.soumu.go.jp/main_content/001031359.pdf
8)https://www.soumu.go.jp/main_content/001022757.pdf

2 中間整理(行政通則法的観点からのAI利活用調査研究会中間整理)


 中間整理は、現時点における行政における AI の利活用として、既存の業務プロセスの一部を職員による処理から AI による処理に代替するといった部分的な置き換えや、職員が行う判断に係る参考情報の収集・整理(職員による判断を AI に検証 させて参考とすることを含む。)といった補助的な位置付けでの利活用が大宗(6頁)とし、情報の収集・整理等の手段としての電子計算機や検索サイト等の活用と法的な差異はなく、国民の権利利益、行政の公正性・透明性との関係でリスクを惹起していないことから、行政通則法との関係で整理・検討を要する論点は顕在化していない(同)としながらも、今後、行政分野においても、生成 AI を始めとする AI 技術の利活用が更に進展していくことを想定(7頁以下)する必要があるとし、ガイドラインの必要性を論じ、短期的に必要なガイドラインと長期的に必要なガイドラインに分けてガイドラインのあるべき内容を説明する。
 短期的に必要なガイドラインとしては、「ガードレール」を示すこと、つまり、ガイドラインにおいて、行政通則法の観点から違法・不当となる利活用の態様や、ただちに明文の条項には抵触しないが法の趣旨に反する利活用等、行政通則法の観点から踏み込んではならない態様を整理する(10頁)ことを挙げ、また、対物行政か対人行政か、対人といっても申請に対する処分か不利益処分かどうか、更には、それが本人の身分等に直接の影響を与えるかどうかといった類型化を踏まえ、様々な観点から行政での AI の使われ方について分類(ラベリング)を行い、それぞれの場合の考慮要素を整理しつつ、行政通則法的に許容されない利活用の態様を示すべきとした(11頁)。
 長期的なガイドラインとしては申請を前提としないプッシュ型の給付や行政が国民とのコミュニケーションに当たって AI 技術を直接活用する行政情報の提供等の問題が挙げられている(18-19頁)。

3 WG報告書(自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ報告書)

 WG報告書における自治体における AI 利用に関する基本的な考え方(9頁-)はリスクベースでAIの積極的利活用を図るというものであり、その考え方に基づく利用方法ごとの留意点(10頁-)、ガバナンス確保(14頁-)、要機密情報の取り扱い(15頁-)、人材育成(18頁-)等の留意点を述べる。

4 報告書等に対するコメント

(1)中間整理


 中間整理は「ガイドラインの必要性」を打ち出しているところ、これこそまさに筆者が様々な行政関係のAI利活用案件に関与した際に実感していたところであって、大賛成である。つまり、自治体はいわば手探り状態でAIを導入しているところ、類似の検討が多くの自治体等で同時並行的に行われていて非効率的であるし、ある意味では誤った判断の可能性もある9。だからこそ、筆者はAIの利活用推進のため、「ここまでは利用が可能で、ここからは利用をしてはならない」「(利用そのものは可能な範囲である前提の下で)この態様の利用の際にはこの点に留意する」等という具体的な指針を示すガイドラインが公表されることを期待していた。中間整理はまさにこの考えと一致している。
 ここで、筆者がこの研究会に期待していたのは、まさに「ガイドラインを示す」ことそのものなのであって、「ガイドラインを示すことの必要性の確認」ではなかった。その意味では、中間整理の問題意識や方向性そのものは全く異存ないものの、結局のところ「ガイドライン」が示されていないことには変わりがない。早期にガイドラインを公表することが強く期待される10

9)筆者が関与した事案でも、すでに公開済みの類似案件があったことから、その類似案件を紹介して、類似案件の関係者から知見を得てはどうかとアドバイスしたことがある。
10)もしかすると、これが「中間整理」だからガイドラインの必要性を述べるに過ぎず、最終報告書としてはガイドラインを示すつもりなのであれば、その具体的ガイドラインの中身こそが論評の対象になるだろう。なお、そもそも例えば契約レビューAI等ではルールベースと機械学習が渾然一体となって働いているところ、ルールベースか機械学習かで法的効果を大きく変える(中間整理12頁参照)ことが妥当か等は、示されたガイドラインに対して論評していきたい。

(2)WG報告書

 WG報告書も、ある意味では、自治体に対し、リスクの低いところから始めて、生成AI等のAIを積極的に利活用することを勧めているものである。そして、AI利活用に尻込みをする自治体も存在することに鑑みれば、WG報告書の方向性自体は正しい。とはいえ、全体を読めばその趣旨は理解可能であっても、個別には疑問のある記載が存在する。
 例えば、「外国人向けの案内の翻訳」にAIを利用して大失敗した件として、2019年に、とある自治体が、台風による水害の際に、ポルトガル語ができる職員のチェックを経ずに避難情報をポルトガル語に機械翻訳して発信し、「増水する川に避難するように」と求めてしまった事案が有名である11。このような点を念頭に置けば、WG報告書の「外国人向けの案内の翻訳」である限り誤訳は妨げないので、機械翻訳を利用して速訳するようにと読める記載12は、山道で誤ったルートを案内して遭難を招く等の危険な事態を招きかねず、ミスリーディングと言わざるを得ない。
 もちろん、WG報告書の全体の記載、とりわけ、「生命・安全に関する機微情報」ではないかを踏まえたリスクベースの判断を求めている箇所を踏まえれば、WG報告書のいう「外国人向けの案内」としてどの範囲が想定されているかを理解すること自体は不可能ではない。ただ、忙しい自治体職員に全体の趣旨を踏まえて善解することを期待することは難しいと思われる13

11)菅尾保「増水の川へ避難を」翻訳ミス、日系ブラジル人に発信」朝日新聞2019年10月18日(https://web.archive.org/web/20191018005145/http://asahi.com/articles/ASMBK4R65MBKUTPB00W.html
12)「仮に、生成 AI の出力結果に不正確な点が含まれたとしても、例えば、外国人向けの案内の翻訳などは、作成しないよりも、生成 AI の出力結果であること及び誤りが含まれる可能性があることを明示した上で公開する方が、住民の利便性が向上する。その上で、公開後に、住民からの指摘等により誤りがあったことが判明した場合には修正を柔軟に行う姿勢が求められている。」(11頁)
13)なお、今後は行政においてもAIを活用して大量の関連する資料のうち、目の前の対応に必要な部分を抽出することが増加すると予測されるし、WG報告書もそのような方向性を志向している(とりわけ「今後、RAG の利用が前提となった場合、各府省庁は積極的に自治体に対する通知等を公表し、どの制度に紐づく通知等であるかが分かるように集約していくこと、また、公表の有無にかかわらず、機械可読な状態とすることで、更なる精度の向上や情報を活用する自治体側の作業の負担の軽減を図ることができる」12頁)ところ、そのような時代を想定しているのであれば、全体をよく読めば理解できるとしても、個別の記載だけを取り出したらミスリーディングになるような事態をできるだけ回避すべきである。

Ⅲ 将来展望

 生成AIの利用については、現在行われている道具的利用と、将来的に行われるであろう「AI公務員」のようなAIへの権限委譲という2つのフェーズを分けて考えることが重要である。道具的利用については、かなりの部分は従来の「デジタル化」の話の延長線上の話であり、それが行政法通則を根本的に変化させるのかは疑問がある。これに対し、将来的に行われるであろう「AI公務員」のようなAIへの権限委譲の時代には、多くの行政法に関する挑戦が生じるところ、それに対する検討には時間がかかる反面、その検討結果を2025年中に必要とする自治体や官庁はそう多くないだろう。そうすると、まず優先的に行うべきは、「デジタル化」の話の延長線上の話について、AIを安心して利用できる範囲を伝え、そのために必要な留意点を伝えることであろう。そのような目下の行政の悩みに応える検討結果を示すガイドラインが早急に示されることが望まれる。


松尾剛行

<筆者プロフィール>
松尾剛行(まつお・たかゆき)
桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士(第一東京弁護士会)・ニューヨーク州弁護士、法学博士、学習院大学特別客員教授、慶應義塾大学特任准教授、AIリーガルテック協会(旧AI・契約レビューテクノロジー協会)代表理事。